ベルエキップ壁画完成!と壁画制作の流れ
天気にも恵まれこんがりと肌も焼けながら壁画は完成しました。
せっかくなので壁画のご依頼をいただいた時に参考資料に成るべく今回はどうやって壁画を作り上げてゆくのか、実際描く前の下準備から書きたいと思います。
まずご依頼を受け、壁画描写予定の画像など送っていただきます。近くなら打ち合わせをかねて現地へ取材をすることから始めるんですが今回は少し遠方の上、コロナ禍もありライングループ上で全て進めました。
壁画は建物全体のシルエット、近くにある色との絡みも重要なのでまわりの環境もわかる引きの画像も送ってもらいます。
今の時代「写真に撮られる壁画」として描くのは大前提なので人物の大きさと窓などを比較できる画像、壁画の「物語」と人物との絡みの可能性を探れる画像もお願いして送ってもらいます。
今回はヨーロッパを匂わす石積みの素敵な壁。
でも壁画の描写には向きません。しかし、描写部分を描写可能に施工すればこの石積みが武器になり得ると考えました。
施工業者と相談したら必要場所にモルタルでフラットにすることは可能とのこと。
もうひとつ、塗料との密着の問題もあるので施工予定の素材サンプルを送ってもらい密着、耐久性を確認。よし、大丈夫!
それを踏まえ提案した画像はこれです。
希望の動物、コンセプトを聞いた上で石の一部を取り除き、壁の中の世界から現れるアニマル達の物語を提案します。
この石積みあってならではの提案です。
トリックアートの手法はやみくもに使うものではなくて手段だと考えます。
ここでの環境下では大いに取り入れます。
この提案画像は送ってもらった写真にデジタルで描き加えてます。
実は壁画制作において1番クリエイティブな時間はこの時にあります。
iPadの10インチ画面がとても壮大に感じます。
現場で思い付くモチーフもあるので施工時ももちろんクリエイティブなんですが、現場での多くはこのデジタル画を移し取る「作業」に近い感覚です。
細かな調整を経て、オッケーをいただいたら作業時間等を逆算し見積もりをだします。
了承いただいたら日程調整。
モルタル施工部分の指示画像を送り業者に依頼。
今回は中々下地施工まで至らず、業者さんに再三の催促を経てようやく施工してくれました。
ライン上で一度も顔を見ずに進めることのリスクはこういうところででちゃいますね。
描写予定が大幅に変更となります。
さらに真夏の描写はキツイことと個展制作も重なってしまいご依頼から季節をふたつくらい跨いで10月ようやく壁面描写へ。
まず夜から現場入りします。
この画像しかなかった笑
プロジェクターを使って、iPad画面を壁に飛ばしたりしながら描写のラインをとります。
しかしながらハプニングはつきもので今回の現場はプロジェクターを充分な大きさで映す距離の確保が難しく事前取材できなかった弱みがここでもでてしまいます。
今回は結局プロジェクターでのライン取りは諦め、壁に近づいたり、離れたりを何度も確認しながらの原始的な手法でラインをとりました。
日は変わって描写一日目。
夜にとったラインを基にまずは壁に筆で「穴」をあけていきます。
時間ごとに変わる周りのリアル石などの影の向きとか濃さを配慮しながら、描写部分での影の向き濃さを決めていきます。
曇りの日などはこの描写の影の濃さだとリアルよりも濃いのかもしれません。
しかし、あの時間でもこの時間でもない「真ん中」を取るより特定の時間や天気に振り切った方が、その時にベストなショットが撮れます。
この現場ではそう考えました。
右上のからの光源、晴天時の影の濃さ設定で進めます。
キリンの描写。
一日目、結構飛ばし気味にやりました。
昼間は日差しが強すぎて休み休み描いたもののなんだかんだ12時間描いて終了。
2日目。
とここでハプニング。
モルタル施工した範囲が僕の指示と間違ってることに気づきました。
これはモルタル施工完了時に完了画像を送ってもらったので完全にその時の僕の確認不足です。
ここでもリモートで進めるリスクがでてしまいました。しかも中々大きめな。
具体的にはキリンの角の部分。
角の描写場所にもモルタルで施工してもらうはずでした。そこにモルタルがない。
しかし逆境を味方に変えることは得意です。
とてもスリリング。
角を石の上にはみ出したように描写することでよりキリンが前にでてきます。
どうせなら前より良くする。そのつもりで頭を捻ります。
問題となるのは角の描写部分の凹凸と石と塗料の密着。
たまたま強力なプライマー(密着を良くする下地材)をもってたのでテスト。
剥がれそうもないので一安心。
比較的穏やかな凹凸部分に角が配置できるようリデザインする。
パンダと、小熊のラインをとって描写。
早速目を描き込んでみる。「居る」感じが急にする。
3日目、チョコレートとマカロンなどを描いて動物達を「甘いもの大好き」にする。
キリンの角の影も描いてより前に出てくる感じに。
このお店のオーナーシェフの飼い猫、もう居なくなってしまったモルモットを壁の住人に。
通学の小中学生も大きな声で指を指しながら「キリンに目がはいったー!」と叫んでる。
そう、壁画はこれから地域の方たちの「景色」になっていきます。そしてその景色の持ち主達へのパフォーマンスでもあります。
だから描く順番、その日の止め時など考慮して進めています。
最終日の4日目、壁の向こう側の世界により物語性を持たすために月と星を描写。「ずっと夜」の世界にします。
これは元々の提案時にはないモチーフで現場をみてオーナーシェフと決めたモチーフです。
細かな調整をして、乾いたらトップコートを上からかけます。10年くらい紫外線からまもって色が抜けないよう保護するのです。
ここは日影になる瞬間はほんの少しでほぼ光が当たりっぱなしの壁。トップコートを祈るように3度重ねました。
色抜けが始まったのならまたその時にトップをかければ永続的に色は保たれます。
カドミウム系の赤色(この壁画では小熊のリボン)の色抜けは早いのでひとつの基準として観察するといいです。
しかしながら僕が生きてる限りは抜けたらまた描けばいいし、何年かしたら上から違うモチーフを書き直すことも大いにありだと思ってます。
トップコートはつや消しを塗るので画面のバラついたつやも均一になり、反射も抑えてよりトリック効果は期待できます。
そしてようやく完成です。
普段はキャンバスに描くので、現場ごとに違う「壁のくせ」を攻略するまで多少パニクります笑
具体的には僕は「ドライブラシ」という筆をかすれさせて描く手法を用いるので、いかに上手くかすれさせるかをその壁ごとに探ってゆくのです。
それは筆のスピードだったり、筆につける塗料の量、積み上げてきたマチエール(絵の具の層の凹凸)にも寄りますが、やっぱりその壁のくせを知り得ないことにはそれすら実行できません。
毎回壁と仲良くなるまで「ヤバいかも」と思う瞬間はあり、今回も例外ではなく。
しかし、毎回何とかなってきたという成功体験と、「そーなるまでやるだけ」という哲学のもと、画面の中で慌てふためいてるといつか「そーなる」
それも凄くスリリングなんです。
以上、割と下準備はするんですが、現場でのハプニング、思いつきなどはいつもつきものです。
どうぞそれを踏まえてご依頼くださればと思います。
あと、現場で欲しいものは、電源と水、そして筆の洗い場です。
荷物の一時的な保管場所もあると助かりますが、クルマが現場近くに止められるのであればそれで大丈夫です。
最後にインスタに上げた壁画の動画を貼っておきますね。
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